そのうち「スマートモビリティ万博」における目玉のひとつとして、空飛ぶクルマが出展されている。今万博では国内メーカーのSkyDrive、全日空と米Joby Aviation、丸紅・米LIFT Aircraft・英Vertical Aerospace Groupeの3陣営が実機を会場内外で運航すると表明している。
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当初は会場アクセスの文字通り一翼を担う予定だったが、商用飛行に必要な型式証明(TC)取得が各陣営とも間に合わず、デモ飛行のみとなった。また、日本航空は当初のパートナーだった独Volocopterに代わり米Archer Aviationと組み、住友商事と共同設立したSoracleを通じてデモ飛行実現を目指したが、開発に専念するとしてキャンセルした。
空飛ぶクルマには依然として「全然クルマ(自動車)じゃない」「ヘリコプターと何が違うのか」といった声が上がる。この状況を打破するためにも、デモ飛行とはいえ実機を運航することは、理解促進、社会受容性の向上のために意義があるのだ。
開幕に先立つ4月9日に行われたメディアデーにて、SkyDriveが開発を続けていた機体「SKYDRIVE(SD-05)」がついに公開された。さらには事前に告知されていなかったデモ飛行も行われた。この記事ではその模様を、SkyDrive福澤知浩代表取締役CEOらのコメントとともにレポートする。
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空飛ぶクルマの搭乗体験ができるパビリオンも

万博会場は大阪府大阪市の人工島・夢洲に設けられている。会場の広さは約155ヘクタールあり、東京ドームでは約33個分にあたる。デモ飛行は会場の最も西側に設けられている「EXPO Vertiport(エキスポバーティポート)」で行われることになっていたが、メディアデー当日は会場最東端の東ゲートからのみの入場となった。エキスポバーティポートまでは距離にして約1.6km。真っすぐ歩けば20分ほどだが、今万博の象徴である大屋根リングをくぐり、特徴的な形状のパビリオンに目を引かれていると、なかなか前に進めない。


その道すがら、エンパワーリングゾーンには日本航空が運営する「空飛ぶクルマ ステーション」が設けられている。将来の空飛ぶクルマが実装された社会を、映像や立体音響、床面振動などで体感できるイマーシブシアター「SoraCruise(そらクルーズ)by Japan Airlines」が公開されている。残念ながら今万博中に飛行する空飛ぶクルマへの搭乗は叶わないが、その雰囲気を楽しめるので立ち寄ってみよう。なお、入館には事前予約が必須だ。
大屋根リングを再びくぐって、西ゲートゾーンへ。「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」前の等身大ガンダム立像を右手に眺め、フューチャーライフゾーンでは338席を擁する巨大なくら寿司大阪・関西万博店を左手に見て、やっとエキスポバーティポートに到着。
流線型のボディが美しいSKYDRIVE

エキスポバーティポートで目撃したのは、白を基調としたボディが輝くSKYDRIVEだった。事前に公開されたプレスリリースの写真でしか見たことのない機体を、早速観察。3人乗りの客室部はヘリコプターを彷彿とさせる丸みを帯びた形状で、流線型のボディはとてもスマートに見える。福澤CEOによれば機体設計には航空機開発の知見を持ったスタッフだけでなく、カーデザイナー出身者も参加したという。美麗なデザインを持つのは、ただ飛ばすだけでなく、社会受容性を高めるために見た目の良さにもこだわった証だろう。


機体前面の窓の面積も広く、視界は良好そうだ。客室部下部には着地時の衝撃を緩衝させるスキッド(脚部)を設置。無骨な金属製の棒が組み合わせて取り付けられており、ここだけは実用一辺倒というイメージだが、今後の開発が進む中で、別の最適な形状や構造へと進化していくはずだ。
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機体定員の3名にはパイロット1名を含む。日本国内で先行して実証飛行を進めている中国EHangのEH216-Sなど、グローバルでは2名搭乗が多いとされるが、SKYDRIVEでは社会実装後の収益性を確保するためにはパイロット以外に2名が乗れる構造にすることが不可欠と判断。プロペラの位置や角度を数千パターンから検討し、3名が搭乗できる構造を導き出した。

パイロットを除いて2名しか乗れないのは少ないように感じるが、公益財団法人大阪タクシーセンターが公表しているタクシー輸送実態調査結果(調査日2024年9月19日)によれば、タクシー1台あたりの平均旅客数は約1.5人だという。空飛ぶクルマはタクシーのように利用するケースが想定されているので、2名搭乗は決して少ない人数とはいえないのだ。
空飛ぶクルマと既存のヘリコプターとの大きな違いは動力にある。すなわち、空飛ぶクルマはeVTOLという略称が示す通り、電動が基本だ。SKYDRIVEのバッテリー容量について、具体的な数値は明かされていないが、EVと同程度であり、EVと同様に約20分の充電で80%程度の充電が可能で、飛行時間は約20分程度になるという。
もちろん安全性を担保するため、実際に飛行できる時間はもういくらか長くなるだろう。将来的には20分飛行し、20分充電するというような運用サイクルも検討している。SKYDRIVEの最高速度は時速100km。夢洲から東海道・山陽新幹線の新大阪駅までは、地上で行くと40~60分ほどかかるが、SKYDRIVEのスペックを最大限に活用すれば15分となる。


また、ヘリコプターと比較して静粛性に優れ、軽量でコンパクトな点も空飛ぶクルマの強みとされる。つまり都心部を飛行してもヘリコプターほどうるさくなく、ビルの屋上などでも離着陸しやすい。もちろん電動のため環境負荷も少ないわけで、福澤CEOはこの点を強くアピールしていた。
マルチロータータイプの特性を存分に発揮したデモ飛行

デモ飛行は17時から行われた。安全確保のため、エキスポバーティポートの敷地外からフェンス越しに見守った。飛行直前になると報道陣がフェンスに鈴なりに並び、関心の高さがうかがえる。
時を同じくして「スマートフォンの電源を切るか、機内モードに切り替えを」という放送が付近に流れ、SkyDriveのスタッフが案内パネルを持って回った。具体的な周波数は非公開だが、運航にはスマートフォンでも利用される電波帯が使用されており、飛行に万全を期すための措置だ。「空飛ぶクルマは飛行機と同じですので、同様の対応を取っています」というアナウンスもあり、空飛ぶクルマは航空機の仲間であるのだと、より印象づけた。

いよいよSKYDRIVEが飛行開始。12基あるプロペラが回転を始めた。その状態が1分ほど続き、段々とプロペラが発する音が大きくなり、ブーンという音が周辺に響き渡り始めると、機体がふわりと浮上。無事に離陸に成功した。ゆっくりと機体が上昇していき、地上から5mほどの高さに至ると15秒ほどホバリング。その後、ゆっくりと20mほど前進し、その場で左へ90度回転して向き変えた。

飛行はとても安定している。ややふらついているように見えるシーンもあったが、危険を感じさせるような挙動ではない。飛ぶ姿は固定翼の飛行機とはまったく異なり、回転翼を持つヘリコプターのそれとも違う。筆者は大型物資輸送ドローン・DJI FlyCart 30の飛行にたびたび立ち会っているが、SKYDRIVEの飛行する姿はそれに近く、まさに大型のドローンといった様相だ。その後もSKYDRIVEは左へ平行移動したり、バックで飛行したりといった、マルチロータータイプ独特の飛行形態を披露し、なめらかに着陸。飛行時間は3分50秒となった。
デモ飛行に対する評価と2地点間飛行への期待

飛行を振り返り、福澤CEOは以下のようにデモ飛行を評価した。

今回のデモ飛行では、狭いバーティポート内で機体の上昇下降・前進・旋回の3動作を披露する計画でいました。実際に飛行してみて、事前の計画通りに実施でき、成功したといえます。当初、4月に飛行させる計画はありませんでしたが、開幕前にデモ飛行に漕ぎ着けたのは非常に意義深いと考えています。
デモ飛行を振り返り、最も気になったのがヘリの飛行だ。というのも、メディアデー当日ということもあり、報道用と思われるヘリが会場上空に絶え間なく飛行していた。SKYDRIVEの飛行に影響を与えはしないのだろうか。同社の岸信夫CTOによると
ヘリとは飛行する高度がまったく異なります。ヘリが低いところを飛んでいるように見えますが、空域を分けているため安全面での問題はありません。この点は航空局ともコミュニケーションを取り、調整を行っています。むしろヘリが発生する音との違いがよくわかったのではないかと思います。
ヘリが地上から離れた空域を飛行していても、ときに会話する声が聞こえないほどの音を発生している。SKYDRIVEもデモ飛行で音を発生させていたが、会話ができなくるほどのものではなかった。ヘリよりも1/3の音量に絞っているということが実感できた。
デモ飛行はパイロットが搭乗せず、遠隔操縦で実施した。これは社会実装に向けた最大の壁である、安全性を担保するTCの取得にも好影響を与えるという。「TC取得はマラソンのようなもの」と例える福澤CEOは、2025年1月にTC取得に向けた必要事項を国土交通省と合意しており、確実にクリアしていくことを強調。また、岸CTOも以下のようにコメントした。
まずは無人飛行で実績を積むようにしています。安全面を考慮しても無人飛行は有効です。シミュレーションで再現できない部分も無人の実飛行でデータを取れて、迅速に改善方法を検討できます。今回のデモ飛行や今後実施する飛行におけるデータはすべて記録し、設計や改良に活用していきます。


社会実装に向けた弾みがつく試み
4月13日の開幕日に予定されていたデモ飛行は悪天候で中止されたため、現状、4月9日の飛行が唯一公開されたものとなった。発表されている次のデモ飛行は、今夏に予定される、エキスポバーティポートと、大阪港中央突堤に設けられた「大阪港バーティポート」との2地点間飛行だ。直線距離では約4.5kmとなるが、第三者上空を避け海上を飛行するルートを取ると考えられるので、7km程度の距離になると予想される。今回のデモ飛行は操縦者の目視内で手動操縦により行われたが、2地点間飛行では目視はできず、自律飛行を採用する。電波や風の状態を観測し、大阪湾を航行する船舶の状況も踏まえながら飛行することが、これまで以上に重要になる。課題はまだ多いようだが、ぜひ成功させ、社会実装に向けた弾みがつくことを期待したい。