オーストラリア政府のロードマップ
今年1月に発生したロサンゼルスの山火事は、2月に入ってようやく鎮圧が宣言された。しかし大規模な山火事はこれまでも繰り返し発生しており、他の国々でも大きな問題となりつつある。
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たとえば今回取り上げるオーストラリアでは、2019~2020年の「ブラックサマー」と呼ばれる大規模森林火災により、広範囲に甚大な被害が及んだ。またその後も山火事は続いており、何らかの対策を講じることが求められている。
そんな中オーストラリア連邦政府は、2024年12月、山火事の管理における遠隔操縦航空機システム(RPAS)技術の活用に向けたロードマップを発表した。
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この中でオーストラリア政府は、「山火事は、毎年オーストラリアで計り知れない環境的、社会的、経済的被害をもたらしている」として、その対策にPRAS技術が活用できると指摘。従来の火災対策では、発火地点の発見に時間がかかり、特に人里離れた場所で発生した火災は数時間から数日間気付かれないことも多いという。
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逆に火災が小規模なうちに発見・消火できれば、被害が拡大することを抑えられるが、現状の手法では難しい局面も多く、新たなアプローチが求められているとしている。
そこでPRAS技術の登場というわけだ。ロードマップでは、災害発生の前・最中・後の包括的なインテリジェンス、監視・偵察(ISR)のサポート、遠隔地やインフラストラクチャの損傷後の通信の提供、災害時および災害後の広範囲にわたる標的を絞ったロジスティックサポートを提供するためのスケーラブルな輸送機能など、幅広い用途が示されており、この技術が緊急対応セクター全体にわたって変革をもたらす可能性を秘めているとの認識を示している。
こうした山火事対応には、局所的な状況認識のための小型クワッドローター、発火の早期発見と活発な火災の監視を可能にする監視飛行用のドローン、消火活動をサポートする車両、各種のロジスティックサポートを提供するための大型車両など、あらゆる範囲のRPAS技術が含まれている。複数種類のドローンや車両を組み合わせて、多層的な運用を行うことを目指しているのが、このロードマップの特徴のひとつと言えるだろう。
多層的ドローン運用による火災対策
オーストラリア政府が目指しているのは、各種ドローンと車両を組み合わせて、火災の早期発見から初期消火までを効率的に行おうとする試みだ。
たとえばある乾燥した日、雷雲が発生し、遠隔地で落雷による発火の恐れがある状況が発生したとしよう。従来であれば、夜間の監視や初期消火は困難だった、しかし新たなシステムでは、まず小型のドローン群が雷雲に追随して飛行し、落雷による小さな火の発生を夜通し監視する。そして火の手が上がり始めれば、そこへ大型ドローンが急行し、消火剤を投下して延焼を食い止める。
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小型ドローンは引き続き炎の広がりを監視しつつリアルタイムでデータを消防隊に送り、夜が明ける頃には人間の消防隊員が正確な現場情報を得た上で出動、強風が吹き始める前に小火を制圧できる。
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このように多層的ドローン運用では、異なるサイズや機能を持つ複数種類のドローンが、それぞれの特徴を活かし、かつ連携させて山火事対策にあたる。小型ドローンは軽量で機動性が高く、カメラや赤外線センサーを搭載して広範囲を監視したり、火種や煙を素早く検知したりする役割を担う。
一方、大型ドローンは長時間の飛行や重い荷物の運搬が可能で、水や消火剤を積載して火点に投下することで初期消火を行うことができる。これら大小のドローンが通信回線によって結ばれ、互いに位置や状況を共有しつつ、人間のオペレーターの監督下で自律飛行を行うことになる。
前述のように、オーストラリアの山火事の場合、人里離れた場所で火災が発生し、それが長期にわたって気付かれないことも多い。しかし多層的ドローン運用を実現することで、「早期発見」と「初期対応」をシームレスに繋ぐことができる。
また遠隔地での落雷火災のように、人間の目が行き届かない状況でも、小型ドローン群による24時間体制の監視網を空中に張り巡らせることで、火が小さいうちに見つけ出すことができるという。そして見つけた火災を、大型ドローンによる無人の迅速な初期消火で抑え込むことで、人的被害のリスクを冒すことなく封じ込めるわけだ。
この間もドローンからは刻一刻と状況データが送られてくるため、地上の消防隊はどこに火が残っているか、延焼範囲はどこまでかといった精密な情報を把握した上で対応できる。
オーストラリア政府はロードマップの中で、山火事管理はRPAS技術を進化させるための理想的なテストの場であり、「あらゆるハザード」に対応する、緊急対応セクターの全体をサポートする技術になるだろうとの見通しを示している。オーストラリアの山火事で鍛えられた技術が、世界各国で多くの命を救うことになるかもしれない。