クボタは、2025年1月に行われるデジタルテクノロジーイベント「CES」に、昨年に続いて出展する。
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今回のCESでは、中山間地域の農業を支えるクボタの車両型ソリューション「KATR」が、機能性やデザイン性、革新性などを踏まえ選定される「CES Innovation Awards 2025」において、「Best of Innovation」を受賞した。
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山間部とその周辺の地域
中山間地域の農業が直面する省人化・省力化の壁
世界中で農業従事者の減少と高齢化が進む中、農業の課題先進国である日本では特にその影響が顕著だ。例えば、果樹栽培農家の数は2000年の約33万戸から2020年には約17万戸にまで減少している。
こうした農家の多くが営む中山間地域は、全国の総耕地面積の約38%、総農家数の約45%、農業産出額の約40%を占める重要な食料生産の場となっている。しかし、傾斜地や不整地が多いこの地域では、機械化が難しく、人手不足が深刻な課題となっているという。
中山間地域の農業が衰退すると、安定した食料生産が困難になるだけでなく、多様な生態系の保全や土砂災害の防止といった多面的な機能も損なわれる可能性がある。持続可能で安定的な食料生産の実現を目指すクボタは、この中山間地域の農業を守ることを責務と捉え、省人化・省力化を目指した技術開発に取り組んでいる。
コンセプトはブロック設計とオープンプラットフォーム
2021年、中山間地域の農業向けにKATRの開発を本格的にスタートさせた。開発を牽引する機械総合研究ユニット 機械研究開発第二部の山中之史氏は、開発初期を振り返り、次のようコメントしている。
山中氏:クボタは、水田に向けたソリューションでは世界一の技術を持っていると思います。ただ、水田は平地です。日本の耕作面積のうち約4割にも上る中山間地域にも、もっと魅力ある製品を作りたいと思い、開発に着手しました。
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KATRの開発コンセプトは2つあり、1つは「ブロック設計」で、KATRは複数のブロックに分かれて構成されており、用途に応じて柔軟に作りを変えることができる。例えば、畑の畝をまたいで作業したければ、ブロックの組み合わせでトレッド幅(車輪間の幅)を広げることができる。
もう1つは「オープンプラットフォーム」。外部からコントロールできるインターフェースを設けたり、外付けのモジュールを簡単に接続できる構造にし、トラクタのように多様な作業を可能とすることを目指しているという。
レガシーな技術が中山間地域の農業で発揮する新しい価値
全地形対応型プラットフォーム車両「KATR」とは
KATRは、傾斜地や凹凸のある路面でも、荷台を水平に保ったまま走行できる全地形型プラットフォーム車両だ。4本の脚を油圧で伸縮して重心位置をコントロールし、不整地でも荷台を傾けずに最大240kgの積載物を運搬できたり、さまざまな機器を組み合わせて多様な作業ができる。
機体から伸びるジョイスティックやリモートコントローラーで直感的な操作が可能。商用バンや軽トラックの荷台に収まるコンパクトなサイズで小回りが利き、大きな機械が入りにくい狭小地でも活用できる。動力源はエンジンのほか、環境に配慮した電動仕様も開発が進められている。
KATRの足元を支えるクボタの高度な油圧制御技術
中山間地域の農業向けソリューションとして、軽視できないのが走破性だ。
山中氏:傾斜不整地で活用するためには、荒れた斜面でも安定して走行できるパワーが必要です。なので、走破性は最も重要なポイントでした。
KATRの走破性を支えているのは油圧制御技術だ。農業機械(農機)や建設機械(建機)の開発・製造で長年培われてきた。
山中氏:世の中に存在する車両型ソリューションは多くが電動で、傾斜不整地ではパワー不足に陥ったり、稼働時間が非常に短くなってしまいます。KATRは確かな動力源と着実に動力を伝達する機構が備えられているので、小さなコンポーネントでも傾斜不整地での走行や作業に必要なパワーを発揮できるのです。また、農機や建機で使われている技術なので、過酷な環境でも安定稼働を続けられる高い耐久性も兼ね備えています。
KATRの開発に先立ち、クボタは油圧制御技術の新たな可能性を追求する基礎研究を行っていた。油圧制御技術はクボタの製品づくりにおける中核的な存在であり、長年にわたり磨き上げられてきた技術だ。このレガシーな技術が、いま中山間地域の農業の省人化・省力化という課題を解決するという新たな価値を創出しようとしているという。
省人化をめざしたオープンプラットフォーム
KATRのもう一つの特長であるうオープンプラットフォームは、外部の機器やモジュールを接続し、さまざまな作業を可能とすることを見据えているという。
その第一歩として、KATRによる防除作業で基礎研究が進んでいる。人の手で行う防除作業は薬剤を噴霧するため、ゴーグルや防毒マスクなどを装着する必要があり、特に気温35°を超える真夏は負担が非常に大きくなる。例えば、エアコンのきいた車内からKATRを操作し、防除作業ができるようになれば、大きな省力化につながる。
山中氏:まずは省力化のためにKATRを介した防除作業の実現に取り組んでいます。しかし、農家さんが儲かる農業を行えるようにするには省力化ではなく、省人化が必要です。最終的には、KATRだけで防除や剪定、収穫作業を可能にし、省人化を実現したいと考えています。
このオープンプラットフォームは、クボタの若き技術者が磨いてきたロボティクス技術によって実現している。KATRは、歴史上長く培われてきた油圧制御技術と、新しいロボティクス技術の融合と言える。
中山間地域の活用に貢献する製品をめざして
KATRの開発は、わずか5人の小規模なチームで始まった。それでも、「中山間地域の農業をサポートしたり、放棄されている里山の自然を守ったりできる機械を作りたい」という思いをメンバーで共有し、開発の原動力としてきたという。今では10人のメンバーが、同じゴールをめざしながら製品化に向けて開発を進めている。
CES 2025でのBest of Innovation受賞については、山中氏は次のようにコメントしている。
山中氏:まだ実感は湧きませんが、嬉しく思っています。世界の農地でKATRが活躍する姿を目にしたら、実感が湧くかもしれませんね。
山中氏はKATR開発への思いを次のように語った。
山中氏:世界の中山間地域の田畑をしっかり活用できる製品を提供したいとの思いで開発を進めてきました。例えば、環境にやさしい製法を採る米国のヴィンヤード(ブドウ畑)で使われることを想定して、排ガスを出さない電動式KATRの開発も進めています。少し大げさかもしれませんが、世界や日本の食料自給率を上げ、食料安全保障を担保する。その結果、中山間地域の自然や動植物の多様性が保たれるといった、当社のESG経営にも貢献できる製品をこれからも目指していきます。